複数就業者への労災保険給付の在り方

第76回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会

厚生労働省から、令和元年(2019年)6月12日に開催された「第76回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会」の資料が公表されました。

今回の議題は2つです。
(1)労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則の一部を改正する省令案要綱について(諮問)
(2)複数就業者への労災保険給付の在り方について

(1)について
今般、毎月勤労統計調査において、全数調査するとしていたところを一部抽出調査で行っていたこと等により、スライド率や最低保障額が低くなっていた 場合があったことを踏まえ、過少給付であった方については、その差額に相当する分等を追加給付として支給するところ、当該追加給付の額については、メリ ット収支率の算定に反映させないようにするためのものです。簡単にいうと不適切な統計による追加給付の額をメリット収支率に反映させると事業主に不利になるので、それはしないよ、というものです。

(2)について
「複数就業者への労災保険給付の在り方」について、検討状況の取りまとめがされております。
参考:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000517290.pdf

副業・兼業を希望する方は、近年増加している一方で、これを認める企業は少ないのが現状です。 その理由としては、 「複数就業者への労災保険給付の在り方」のほか、「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方」や「複数の事業所で雇用される者に対する雇用保険の適用」 、「情報漏えいの危惧」など様々な理由があります。

その中でも注目すべきは労災保険給付の給付日額の考え方です。
労働者が2つの事業場で働き、賃金の支払いを受けている場合、通常はその合算した額をもとに生計を立てているものであると考えるのが自然です。ただし、そのような場合であっても、現状は業務災害又は通勤災害によって障害を負って労働不能になった場合や死亡した場合の障害(補償)年金や遺族(補償)年金等に係る給付基礎日額について、発生した災害に関わる事業場から支払われていた賃金をもとに算定されることとなります。
その結果、業務災害又は通勤災害による労働不能や死亡により失われる稼得能力は本来2つの事業場から支払われる賃金の合算分であるにもかかわらず、実際に労災保険から給付がなされ、稼得能力の填補がなされるのは片方の事業場において支払われていた賃金に見合う部分に限定されることになります。特に、賃金の高い本業と賃金の低い副業を持つ二重就職者が副業に関し業務上又は通勤途上で被災した場合には、喪失した稼得能力と実際に給付される保険給付との乖離は顕著となり、悲惨なものになるでしょう。

これは懸念事項の一つに過ぎません。このような 大きな問題が散見される以上、 政府が副業・兼業の普及促進を図ろうとしているとしても、会社としては副業・兼業を認める働き方を運用することはできないと考えるのが自然です。

現在、様々な検討が進められています。明確で納得の出来る法律となることに期待しましょう。進展がありましたら改めて周知致します。

労務・年金相談安達事務所